1990年5月号 金型ジャーナル 
 

海外事情 あれこれ

ドイツ・VDMAのメンバーの前で手品路披露する伊藤澄夫氏

今回のヨーロッパ金型業界視察団は、本誌が企画した過去11回の中で最小の参加者にとどまった。負け惜しみに聞こえそうだが、視察先では逆に行動が取れやすく手軽なツアーとなった。というのも、本来なら寂しいはずのものが、参加者の中の一人、伊藤製作所の社長・伊藤澄夫氏の明るい性格があっという間に全員に浸透し、羽田を飛び立って間もなく、全員のリーダーとしての存在感を誰もが認めてしまったことだ。

ドイツ・フランクフルトのVDMAを訪問し、約2時間のミーティングが終わって、軽い昼食の際、同社長はお得意の"手品"をVDMAのメンバーの前で披露したのである。お固い話にいささか疲れていたVDMAの面々、コの字形テーブルの中央に出てきた伊藤澄夫氏は、小道具のハンカチ、火のついたタバコを見事に消してしまった手品に、専務理事のB/Limlei氏が笑い出すと、それにつられてドイツ側のメンバーも拍手と爆笑。

Limlei氏は「金型の仕事が取れないときはその手品で取れるかも。会社がうまくいかなかったらマジックで飯が食えるぞー」と、いったものだ。
とにかく日本人は外国人と接すると言葉の問題もあって寡黙になりがちだが、同氏は英語に堪能な事もあって堂々と渡り合えるため、いわゆる物怖じしない。

今回は海外出張のため、手短な小道具のインスタント手品だったが、成田を立って間もなく機内でパーサーに披露したのを手始めに、ドイツ、ギリシャ、イギリスなどで即興の手品を披露し、思わぬところで、"国際親善"の役割まで果たしてくれた。

視察も最終日のギリシャで観光地近くのみやげ物店に寄ったときは、観光バスの運転手とガイドが、お礼にとみやげ物店の品を同氏にプレゼント。これに対して、手品で白紙の紙を1000円に替え、お礼としてガイドに渡して笑いは最高潮だった。