2001年6月20日 中部経済新聞 
 

経済フォーラム ―伊藤製作所社長・伊藤澄夫氏―

フィリピン合弁が好調

大手メーカーの海外進出に伴い、供給先を失いつつある中小企業の生き残りは年々、難しくなって来ている。こうした逆風をいち早く察知したプレス部品メーカー・伊藤製作所は、フィリピンに合弁会社「イトーフォーカス」を設立し、進出してからわずか4年で利益を計上するまでに成長させた。合弁会社の会長を務める伊藤澄夫社長に、進出するまでの経緯と今後の展開などを聞いた。

―海外に進出した理由は。

「供給先の大手メーカーが海外での生産比率を高めた事に加え、国内で生産する部品や資材も、海外から調達するケースを増やしていきたいという事が背景にある。CAD/CAMやNC工作機を導入して高速化、無人化を進めてきたが、他社が模倣できないオンリーワンの技術がない以上、受注がじり貧になるのは充分に予想できた。スピードだけでなく、価格も武器にしないと生き残りは困難、というのが理由だ」

―治安を理由にフィリピン進出を敬遠する企業が多いと聞く。

「当初は、多くの大手企業が進出していたタイに照準を当てていたが、既に多くの企業が進出済みで、用地価格の高騰と、工場規制で市中での立地が困難な事が分かり断念した」

「25年前たまたま本社の近くの企業に研修にきていた中国系フィリピン人と知り合い、その友人から、20年前に現在社長を現在務めるステファン・シーを紹介された。スタンフォード・ビジネススクールを卒業した優秀さだけでなく、現地の事情にも明るい。合弁設立の話し合いから1時間もかからない、スピード決済だった。心配された治安も、どんなパートナーと手を組むかにかかっていると思う。この点に関しては幸運といえる」

―設立4年で売上高を4倍に伸ばし、利益を生むまでになった。

「大学進学率が他のアジア諸国と比べて5〜6倍高いことと、そうした優秀な人材が安価な賃金で雇えることにつきる。人件費は日本の20分の1程度で済み、短納期でまとまった受注が舞い込んでも、3交代の変則勤務も何ら、いとわない」

「競合する企業が少ない事もある。世界各国から大手企業が進出してくる一方、それにたいしてサポートする下請け企業は多くない。フィリピンでは治安が悪いといった国内の認識が、当社にとってプラスに作用していると思う」

―今後の展開は。

「当初の収支計画よりも早く利益を生むようになったが、還元するよりも、将来の成長のために積極的に投資に回す。現地企業への部品の供給も一部見直し、今後は伊藤製作所との連携も密にする。金型設計の図面は、日本の10分の1の価格で仕上げられ、インターネットを介せば、時間の障害も無く、グループ企業を有機的につなげる戦略に出たい。