1987年5月号 三重県中小企業情報センター 
 

インフォネット ふ・れ・あ・い インタビュー

小規模でもキラッと光る会社づくり推進

・・・伊藤さんは86年5月、社長に就任されました。お父さんからのバトンタッチですが、早くから心の準備ができていたせいか戸惑いが感じられません。すっかり板についているようですね。

伊藤:しばらく何てことない!と思っていましたが、ここに来て社長としての責任の重さをひしひしと感じます。専務時代は、例えば設備投資する際に、社長が難色を示しても押し切る形で実行してきました。実際にトップになってみると最終決断の厳しさが専務時代と違います。自分が保証人になっている借り入れ金額も増えるためか、どこか慎重な面が出てくるんですね。親父の偉大さを痛感している次第です。早くそのたくましさ、粘り強さを身に付けたいものです。

・・・貴社は自動車関連のプレス部品や金型製作が中心です。山椒(さんしょ)は小粒でも・・・のたとえのようにその技術力は評価が高い。

伊藤:お陰で皆様から大切にしてもらっています。いろんな方が会社を訪れてくれます。「良い設備じゃないか」「QC活動もまずまずだ」など一応の評価を受けます。ここで欲しい言葉は、伊藤の社員はしっかりしている、良くやっていると真っ先に評価を受ける事なのです。そうです!当社は製品を作る以上に人を作っているのです。設備の良さはその次に来て欲しいのです。

・・・円高不況がわが国産業を包んでいます。多くの企業が苦しむ中で、貴社は堅調な業績で推移しています。競争力は何処にあるのでしょう。

伊藤:ここ10年間の設備への先行投資と、技術力向上への取り組みが効いているのでしょう。当社も決して楽ではないし、このように激しく動く経済状況下では、一瞬たりとも気を抜くとすぐ水面下へ沈んでしまいます。今のところお客さんのニーズに何とか応じられているというのが実情です。

・・・他社よりも先へ、先への経営方針ですが、当面どのような展開を。

伊藤:プレス部品はより精密化、高速化への追求をしていきます。製品のサイズもより小さいものを手掛けていきます。どんなに大きくてもウォークマンのように手のひらに乗るサイズまで。金型の精度アップは当然ですが、無人化への挑戦を進めます。CADの活用も武器にしていきます。とにかく、コスト、品質といったどれをとっても抜きん出ていないとダメなのです。韓国の追い上げも要注意ですし。

・・・やはり韓国等の中進国が気にかかる?

伊藤:韓国に限定するわけではありませんが、シビアなコスト競争を強いられる中で、賃金をはじめ、わが国と近隣諸国との差は歴然です。先般も韓国の技術者が当社でCAD等の勉強にきていました。きわめて優秀な人たちです。わたしがより精密化、無人化を急ごうとするのも、そうしないと競争にならないし、企業の発展が望めそうにないからです。我々の得意先は精度が高く、コストメリットがあれば海外でも発注すると考えた方がいいでしょう。

・・・経営のカジ取りはどんどん難しくなってきてますね。伊藤さんの情報のアンテナはどんなところにあるのですか。

伊藤:人です。海外も含め多くの方とお付き合いをさせていただく中で学び、情報を得るよう心がけています。いろんな方に可愛がられるよう努力したいと思っています。

私は社員から選ばれて社長になったわけではありません。能力がなくても選ばれたかもしれません。大きな失敗をしない限り社長でしょうが、失敗すれば腹をも切らなければいけないのです。経営への責任は重いと考えています。

主義として、会社の人的規模を広げない。守衛のいるような大企業も目指さない。せいぜい社員は70人までに抑えるが、生産能力の拡大は図る。下請け企業でそれ以上の規模になると、目が行き届かず、コスト競争力に負けます。規模が小さくてもキラッと光る会社作りを目指します。三重に伊藤製作所があると評される会社に・・。社員や取引先などの幸せな輪の中の一員に私も入れさせていただけるよう、全力投球していきたいと思います。

・・・最後にもし伊藤さんに半年間自由な時間が与えられたらどうしますか?

伊藤:外国に行きたい。英語をこの際完璧なものにしたい。大陸で気ままに飛行機を操縦したい。1日中馬に乗りたい。ピストルを撃ちたい。遊び人にヘンな事を聞かないで下さい。やりたいことばかりです。
そして、日本を離れてみて、会社や家族、友達のありがたさが身にしみる事が容易に想像できます。半年の期間は、ホームシックにならないでしょうし。丁度いい期間ですね。