2010年1月 年頭所感 
 
 

 謹んで新年のお慶びを申し上げます。

 当社は今年創業65周年を迎えるに当たり、厳しい環境下一層の前進を図るべく努力してまいります。
 年の初めに明るい話題を皆様に提供し、年頭のご挨拶をしたいと思ってもなかなか良い事例が見つからないことは残念でなりません。
世界同時不況からやや持ち直しつつあるものの、設備投資が冷え込んでいる中、金型や工作機業界の短期間での回復は期待できない状況にあります。加えて、「豊かな日本では物があふれ、経済の低迷によるデフレと少子化などの悪環境下、今後、車の販売増が期待できない理由で車種も大幅に少なくなる」と報道されました。更に、部品の共通化が進むことを考慮すれば、金型や専用機の需要が近未来に増えることは残念ながら期待できないのではないでしょうか。今回の不況に対して起死回生の一発妙案と言うものは見当たりません。我々は自分の進む道を自分で探す事も心しなければいけません。
 どのような経済状況であれ、企業は生き残り、更に発展しなければなりません。過去において、「受注は待っていれば得意先様から定期的にいただけるもの」と考えていなかったでしょうか。毎日餌を貰える伝書鳩から、自ら餌を探して生き延びる野鳩の精神にならなければいけないと思うこのごろです。
 その餌は日本にしか無いのではありません。近隣諸国では中小企業でさえ管理職であれば英語や日本語、中国語のいずれかを話します。モノづくりにおいて先進国になった韓国や台湾、シンガポール、マレーシアなどの例をみると、語学力を武器に世界中の需要のある国に打って出て、国内の不況をカバーしている製造業は数えきれません。特に韓国企業の中には、貪欲なまでに積極的に海外営業を行い、相当の受注を得ている企業が多く見られます。技術後進国でも語学力は日本とはケタ違いのレベルです。彼らはその語学力で、日本を始めとする先進国から技術を教わる努力をしています。日本のモノづくり製造業の海外視察は頻繁に行われていますが、帰国後訪問した企業と連絡を取り合ったり、受注に結びつけることができるかどうかも語学力次第です。
 海外に情報を発信することができない理由で「日本は金型や卓越した工業技術品を輸出できるの? オーダーしたいが返事が無い」と言われるありさまです。金型を輸出している企業でも日本の得意先の現地企業に限られるケースがほとんどです。これほど高い技術力を持つ日本のメーカーが技術で困っている国からでさえ語学力が劣る理由で受注ができないのです。海外では技術力を上げることは語学をマスターすることよりはるかに難しいと言われていますが、何てもったいないことでしょう。
 「日本がだめなら海外で」と活路を開く意味で、今後は中小企業であれ語学の重要性を認識しなければいけない時代になりました。それに「仕事さえあればどこにでも飛ぶぞ!」と言える気鋭の社員を育てることも必要でしょう。余談ですが、日本の代議士が海外を訪問した折、英語で挨拶すらできないと軽蔑されていますが、諸外国の代議士にはありえない話です。年々、日本の国際的存在感が薄れつつあるのはこのことが理由かもしれません。
 海外貿易は勿論、海外進出も一つの手段です。近隣諸国では金型で困っている例が山ほどあります。日本の金型メーカーの技術力があれば進出のチャンスは今からでも遅くはありません。当社は、昨年末から今春の不況時にフィリピンの子会社から多くの金型を受注し、かろうじて赤字から免れました。
 もう一つの生き方として、諸外国では不可能と思われるような技術力をつけることでしょう。幸運にも一昨年より通称サポイン法と言われる中小企業向け支援策など、技術開発に関して国から支援を頂いていることは心強い限りです。又、オンリーワンの技術を開発したとしても、その装置や技術を輸出してしまえば容易に真似(コピー)をされます。できることであれば高レベルの技術を備えた設備や金型は輸出をせず、国内、できれば社内で量産をすることが良い方法でしょう。それは海外へ技術の流出を防ぐことにもなります。
 1970年代よりセットメーカー様の魅力的で高度な工業製品の輸出好調のお蔭で多くの仕事を頂き、製造業は懸命に専用機や金型を製作した結果技術が向上しました。現在受注が少ないことは将来の技術力の低下につながります。“素振り”をしてでも技術力を落とさない努力をしたいものです。
 海外のユーザーに「メイドイン・ジャパンの自動車やカメラであれば10%高くても買いたい」と過去には言われました。これを言われ続けるには、我が国の下請け製造業の進化・発展が必要条件であることは論を待ちません。
当社の海外事業は予想を上回る勢いで成長をしていますが、反面日本の中小製造の実態は大変厳しいと言えますし、数年後には50%近く消滅する業種があると言われています。大手メーカー様とて利益が薄くなっている理由で海外から安価な工業製品を輸入することはビジネスの基本である、と理解していますが、同時に長期的に日本の製造業が生き残り、更に世界に対して優位性を維持できる技術の蓄積のための購買政策にも配慮していただきたいものです。早い時期に日本の魅力的な工業製品が再び世界のユーザーに過去にも増して買っていただけることを信じたいものです。

              (社)日本金型工業会 副会長 中部支部長 国際委員長

          (株)伊藤製作所   代表取締役 伊藤澄夫